
2013年01月16日 (水) | 編集 |



俺が母さんを殴るようになっていた中1の3月。
父さんが現れた。
驚いたのに。
「おっ」
と挨拶のように反射的に出た言葉は軽く響いた。
家の玄関の壊れた扉はいつも開けっ放しだった。
誰の物とも分からない靴が、子供用の小さな物まで混じり、玄関の外まではみ出している。
それを挟んで父さんは言った。
「たくろう」
「一緒に来んか?」
「どこに」とっさに口から出てしまったのを被せる様に言ったんだ。
「お前と誰が行くか」「はぁ?」
トイレに行こうとしてた俺は、短ランのポケットに手を突っ込んだまま部屋に引き返した。
デブから不良に変わった俺をどう思ったのかが気になって心臓が鳴った。
言いたい事は後から後から出てきた。
何故言えなかったのか。
不意打ちで卑怯だと思った。
「母さんと俺達を捨てたお前なんて今更よそ者だ」
殴っているのに、母さんを守ってやりたかった。
何故言えなかったのか。
何度も自分に腹が立つ。
ばかだ。
俺はその日から一体何度思い出したろうか。
父さんの
「たくろう。一緒に来んか?」
そう言って、うん、と頷(うなず)くように目を伏せる3秒の映像を。
あの日のあれから一度も会っていない。
どこに居るのかも、居ないのかも、誰も知らない。
大好きだった、憧れだった、格好良くて、
空も飛べそうなくらいの勢いの男だった、
父さん。
めちゃくちゃ嬉しかったんだ。
俺は父さんの特別な存在なんだと確認したんだ。
一生後悔して泣いてくれ。
小5の俺が待ち焦がれて帰りを迎えたのに、
冷たく、遠い人のまま消えた父さんだったから。
何年も経って、大人になってから、
弟の所にも同じ事を言いに来たと知った。
大人になってからで良かったと思う。


スポンサーサイト
| ホーム |